口の放射特性の逆フィルターとフォルマント周波数で減衰するフィルターを使って声門の音源のスペクトルを予想する
「声門の音源の周波数特性は 険しいピークがない右肩下がりの特性である。」
「フォルマントの共鳴の強さは 周波数によらず同じ程度である。」の仮説のもと、
音声に、口の放射特性の逆フィルターを掛けて、共鳴の効果を除くためフォルマント周波数で減衰するフィルターを掛けて
残ったものは、音源のスペクトルの状態を示唆すると考え、声門の音源のスペクトルを予想する。
また、音源のスペクトルへの鼻の影響(鼻音)も考察する。
疑似的に作った声門の音源波形の周波数特性の例
下図は、A.E.Rosenbergの式を変形して作成した、疑似的な声門の波形(上)とその周波数特性(下)である。
これを見る限り、声門の音源のスペクトル(周波数特性)は、共鳴現象に見られる様な険しいピークはなく、
周波数が高くなるにつれて、おおむね右肩下がりの特性を示すと考えられる。(仮説)
単独に発話した母音の「あ」のフォルマントの例
下図は、単独で発話したときの母音「あ」のフォルマントの例である。
赤い点がフォルマントの中心周波数を、黄色点は中心周波数の大きさから-3dB低下したポイントを示す。
これらから、フォルマントのQ値を求める。
口の放射特性の逆フィルターの近似
口からの放射特性は1次のハイパスフィルターで近似されるものとして、その逆フィルターとしてローシェルビングフィルターを使う。
ローシェルビングフィルターを使う理由は、数十Hz以下の応答で逆フィルターのゲインが高くなりすぎることを避けるためである。
下図は、口からの放射特性を近似する1次のハイパスフィルター(緑)、その逆フィルターとして使うローシェルビングフィルター(青)、
両者を掛け合わせたときの総合特性(赤)で基本周波数F0程度まで、ほぼフラットな特性になっている。
共鳴の効果を取り除くためのフィルター
共鳴の効果を除くための、フォルマントの周波数で減衰するピーキングフィルターを使う。下図は、ピーキングフィルターの周波数特性の例である。
フォルマントの共鳴の強さは周波数によらず同じ程度である(仮説)とし、
ピーキングフィルターによる減衰のゲインは周波数によらず同じ値にした。(gain pattern 1)
口の放射特性の逆フィルターと共鳴の効果を取り除くためフォルマント周波数で減衰するフィルターを掛ける
下図は、もとの音声波形(青)に、口の放射特性の逆フィルターを掛けた波形(赤)と、更に、共鳴の効果を除くためフォルマント周波数で減衰するフィルターを掛けた波形(緑)の例である。
基本周波数の影響を避けるため1ピッチ分の信号を取り出す
周波数特性に現れる基本周波数 F0の影響を除くため1ピッチ分の信号だけを取り出して周波数分析を行う。
波形の微分の変化点と閾値により1ピッチ分の位置の候補(赤丸の位置)を選出した。
声門の音源の周波数特性を予想
口からの放射特性を除き、口の中の共鳴(フォルマント)効果も取り除けば、源の声門の音源のスペクトル情報が
得られるであろうと考える。
下図(下)は、1ピッチ分の信号だけを取り出し波形(青)と、A.E.Rosenbergの式で疑似的に作成したリファレンスの声門の波形(赤)の
周波数特性の比較である。おおよそ類似した右肩下がりの特性となっている。
取り出した波形は経路(音源からの口での放射、そして、もとに戻すためのフィルター)で位相が変化しているため、声門の閉鎖を示す(底に張り付いたような)区間をもつ波形になっていない。
周波数特性の大きさは変えないで位相特性だけリファレンスに合わせるると、下図(上)の黄色の様な波形となる。
鼻の影響(鼻音)の考察
鼻音の「な」のフォルマントの例
下図は、鼻音の「な」と発話したときの、母音部分のフォルマントの例である。
単独で発話したときの母音「あ」のフォルマントに比べると、赤丸で囲った部分のピークの勢いが低くなっている。
この違いは、音源からのエネルギーが鼻の方に漏れ、強さが低下したものと考える。
ピーキングフィルターの減衰ゲインの調整
下図は、フォルマントの共鳴の強さは周波数によらず同じ程度である(仮説)とのもと、
声門の音源の周波数特性を予想したものであるが、単純な右肩下がりからずれている箇所(赤丸で囲った箇所)がある。
そこで、
下図は、鼻の効果を補正するため、減衰ゲインをある周波数以上では小さく設定したものである。(gain pattern 2)
声門の音源の周波数特性を予想したものは、ほぼ単純な右肩下がりになっている。
ここでは、フォルマント側の強さを調整したが、音源の方でエネルギーが落ちていると解釈することも可能である。
参考までに、上記で使ったpythonプログラムをおいておきます。 使い方はzipファイルを解凍した中にあるREADME.txtを見てください。
No.1b 2019年3月13日
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